#07 キラキラは正義
カードゲームに限らず古今東西のカードを蒐集するキッズの10人に300人はフォイルカード(俗にいうキラカード)が好きである。否、大好きである。少年も多分に漏れず大好きで、デッキ構築に道があるとすれば、その道を踏み外してでもキラカードをデッキに突っ込んでしまうほどである。
それは結局毎回マナに置かれ日の目を見ることが殆どないのだが、キラカードの「カッコよさ」に魅了されデッキビルディングの際に実際のプレイングなど全く想定せず「導入するか否か」のラインを2段階ほど誤判断させてしまう。
キラキラはカッコいい、カッコいいは正義。
それはわかる。
マスターカードなんてキラキラな上にボコボコしててさらにカッコいい。
それがパックから出てこようもんなら、デッキコンセプトを崩してまで他文明を無理やり導入しようとしてしまうほどである。
そんな少年が昨日パックから引き当てたマスターカード(正確には違う)がこれ。
アニメでも大活躍したメタリカの暴発マシン、《DG ~ヒトノ造リシモノ~》。
そのカードは例によってキラキラのボコボコで、子供の心を鷲掴みするに十分な魅力をこれでもかと放っている。
「うは・・・・うあははははは!!!・・・さばく!」
なにが「さばく!」だ。
どうせ簡単に捌かれるデッキを作り上げてくるのは目に見えている。
少年がマスター、レジェンド、ビクトリー級のカードを手に入れたら、毎度毎度どうしようもないデッキを作り上げてくるのは最早恒例行事になりつつある。
しかも今回は《DG ~ヒトノ造リシモノ~》。
ほぼメタリカでしか輝かない、専用のカードみたいなものである。
なのでメタリカや、そのサポートカードを殆ど持っていない少年には無用の長物で、今後揃えていくとしても今すぐデッキどうこうとは形にならないレベルなのだ。
「できた!」
先ほど1からデッキ構築を始め、わずか10分も経っていない。
ひときわ大きい合図とともにデッキを握りしめ意気揚々と登場した少年は、頭の中が透けて見えるようで「DGでさばく」「さばいて勝つ」という具体性もなにもあったもんじゃない妄想で満たされているのがありありと出てしまっていた。
もうこれは読めた展開なので、実は少年のDGデッキに対抗するためのものを私も既存デッキを投入し用意していた。
兎角デュエルを開始。1ターン後攻、早速少年に衝撃が走る。
初期手札に浮かない顔をしていたのが、ターン初めのドローで途端に熱気を帯びていっていた。
「ん?DGきたの?」
「ぜんぜんきてないきてない!まったくこない!こないなー!」
DGがきたようだ。
わかりやすい。
しかし1枚しかないカードを1ターン目で引くとはなかなか。
ここから互いにウィニー、ブロッカーを並べつつターンは進み、いよいよ6マナ溜まったターン、1ターン目から大事そうに持っていた真ん中のカードをいよいよ繰り出す。
「6マナで《DG ~ヒトノ造リシモノ~》を召喚!」
「そして出た時効果でそのシールドとこのシールドをブレイク!」
DGの効果で互いのシールドを1枚ずつブレイクする。
「へへっ、これはブロッカーでも防げないよ~!!」
同様に少年のシールドもブレイクを防げないのがわかっているのだろうか?
少年は自分のシールドを手に取り「惜しい!」と短く叫ぶ。
《DG ~ヒトノ造リシモノ~》がいると、シールドから出来てたメタリカと裁きの紋章が全てS・トリガーになるのだが、惜しいということは恐らくメタリカっぽい見た目の別種族のカードだったのだろう。
光単のはずだからガーディアンかメカ・デル・ソルのクリーチャーあたりとみる。
「ターンエンド!」
何故かもう勝ったかのような表情で高らかにエンド宣言をするのだが、いつも返しのターンでこっ酷い目にあっているのを忘れているのだろうか。
まぁ覚えてはいるのだろうが、いま少年の中は「DGでさばけた、これで勝てる」の一色で塗りつぶされているのだろう。落ち着け。
現実はアニメのように自分に都合がいいようにならない事が殆どなのだから。
さて、返しのターン。
7マナあるので《光器パーフェクト・マドンナ》と2コストのクリーチャーを出しておく。
現実はアニメのように自分に都合がいいようにならない事が殆どなのだから。
さて、返しのターン。
7マナあるので《光器パーフェクト・マドンナ》と2コストのクリーチャーを出しておく。
「ターンエンド」
「しゃああ!!」
いちいちやかましい。
「じゃあこっちはさっきシールドから出てきたこいつを出して・・・と」
お前これがメタリカに見えたのか?
例えば、
こういう系統ならまだメタリカと勘違いするのはわかるのだが、カメンビーがメタリカに見えたって本当か?
まぁそれはさておき少年、DGで攻撃。
「攻撃!プレイヤー!攻撃トリガーでこことここのシールドをブレイク!」
確かにブロッカーでは防げない、防げないのだが・・・
「《天雷王機シルバー卿》でシールド・セイバー、シールドの代わりにこのクリーチャーを破壊する」
「え?」
「DGの攻撃をパーフェクト・マドンナでブロック、マドンナはバトルに負けバトルゾーンを離れる代わりにとどまる」
「え?え?なんで?」
シールドはブレイクされないわ、バトルに負けたクリーチャーが破壊されないわで少年は完全に混乱状態。
それどころか攻撃した自分だけがシールドが減ってしまい、リードしていたシールド残量が並んで残り1つずつ。
「一つ目はシールド・セイバーっていう、シールドがブレイクされる時に身代わりになるクリーチャーがいるんだよ」
「えーーー!!!???マジで!!??」
「二つ目はこのクリーチャーはパワーマイナスと置換効果以外では破壊されないやつなのよ」
「・・・おきかえ?こうか?」
「まぁ、これは話すと長いから、続きはウェブで、ターンエンド?」
「ターンエンド・・・」
こういったルール説明はデュエル中ではなく、そのあとにステレオタイプなケースを用いて教える方が理解がしやすい。
「まぁこっち5体もブロッカーいるから」
確かに5体もブロッカーがいる上に、こちらがプレイヤーに攻撃できるのが《天雷王機シルバー卿》ただ1体。
しかしこれでいい。
「1、2、3、4、5・・・6っと、6マナで《DNA・スパーク》」
「なにその呪文、どんな効果?」
「うん、相手クリーチャーを全部タップ」
「え?うそ?」
「はい全部タップして」
「最悪。ブロックできないし」
「で、山札からシールドを1つ追加、と」
「え?シールドも追加!?ちょっとカード見せて!!」
「書いてるだろ?」
「書いてる・・・」
「で、はい。どっちにする?決めて」
「???」
「だからブレイク。どっち?」
「だからなんでブレイク?」
「タップしただろ?DG。ブレイクしろよ」
「なんで?」
「あー、ちょっとDGの能力読んでみ」
「えーっと・・・・・うそ?」
「で、どっちにする?」
「なんでブレイクする能力が攻撃の時じゃなくてタップした時なんだよ!!」
「早く決めろよ」
「じゃあ左!左の方!」
「ほい、シールドチェック、なし!少年は?」
「なし・・・・」
「んじゃとっとと決めよう、ダイレクトアタック」
「あああああ!負けました!!DGよっわ!まじよっわ!!」
酷い言いがかり。
どう考えても弱いのはDGではなく少年である。
「ダメこれ!作り直す!」
こうして少年は今回も過度に期待されたハイレアリティのカードにデッキごと振り回され爆死した。
ちなみにこの手のカード入りデッキを「作り直す」と宣言した少年が、それを完成させリベンジの為に私の前に現れたことは、一度もない。
いつだって失敗してから気付く。そこで初めて気付く。
今回の教訓
知らなかったでは済まない
今はまだいい、しかしそう遠くない将来、知らなかったでは済まないことが次々とやってくる。
その時までに色々な事を経験し、悩み、考え、覚え、知り、下らないことでもいい、何でもいい、知っていることを増やしていかなければならないのだ。
そしてそれがある一定量蓄積されると、たとえ本当に知らない事がやってきても最悪の結果を避け、何とか乗り切れるようになるはずだ。
子供が子供でいられる時間は、そうは長くはない。
それを知るのは、全てが終わった後、宝石の日々を振り返った時。
君たちは今、大事な思い出の中を、生きている。
宝石箱の中で煌めいている。
その時までに色々な事を経験し、悩み、考え、覚え、知り、下らないことでもいい、何でもいい、知っていることを増やしていかなければならないのだ。
そしてそれがある一定量蓄積されると、たとえ本当に知らない事がやってきても最悪の結果を避け、何とか乗り切れるようになるはずだ。
子供が子供でいられる時間は、そうは長くはない。
それを知るのは、全てが終わった後、宝石の日々を振り返った時。
君たちは今、大事な思い出の中を、生きている。
宝石箱の中で煌めいている。
≪#06 パワーがデカけりゃそりゃ偉い(後編)
この物語は実話をもとに構成されているフィクションです
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